天使と呼ばれたその声を
それは本当に無意識な行動だった。お母さんの頭を自分の胸の中に押し込み、全身で包み込んだ。そして、その瞬間、全身を貫く痛みが走り目の前が真っ白になった。
何が起きたかはわかる。額には生温かいものが伝っていた。お母さんの悲鳴と呆然と立ち尽くす父親。
「俺じゃない…俺じゃないぞ…」
そう震えた声を出した父親は慌てて家を飛び出した。頭を瓶で撲られたのに、痛みに苦しむわけでもなく不思議と冷静な自分がいた。
「お母さん、もう、大丈夫だよ。お父さんが戻って来る前に逃げて」
やっと、涙を流したお母さんを見ると何だかホッとした。どれだけ私を守る為に流したくても流せなかった涙があるのだろうか。だから、やっと泣ける事の出来たお母さんに安心した。
「お母さん、早く」
「ミチル…病院に行きましょう」
「大丈夫だから、お願いだから」
「だって…」