吹いて奏でて楽しみましょう
「後ろのシート倒せばなんとか全員入るかな。」
車はワゴン車と乗用車。
聡美先輩をはじめ、数人の3年生と6、7名の1年生がワゴン車に乗り合わせた。
用事のある人は第1陣で帰っている。
「私、一番後ろがいい。」
「私も~」
1年生は後ろシートを倒して2列に乗り込む。
私は、倒したシートの前の方に収まった。
後ろでは、車のバックドアにもたれかかってくつろいでいる人たちがいる。
「そこ、微妙に怖くない?」
「狭そうだし。」
前列の私たちが聞くと、
「え~なんで?楽しいよ~。」
と返ってきた。
へ~、そうなんだ。と思った矢先。
「一番後ろ、鍵かけたかな~?」
「ええ~~!?」
運転手の副顧問の言葉に私も含め一同仰天する。
一変、
「いや~!こわ~い!!」
さっきまで、楽しそうにしていた最後尾が恐怖の色に変わった。
「先生、ウソでしょう!?」
「後ろに乗らなきゃよかった~」
「絶対ウソだよ!」
「まぁ大丈夫だと思うけど、どうかな……わっ!」
「ぎゃっ!?」
「なんてな。でも気をつけろよ。」
先生の脅しにブーイングの嵐が吹く中、車は上り坂にかかる。
全体重が後ろのドアにかかる。
冗談だろうと思いつつも、騒がしくなる最後尾。
「なんかあったら私に捕まって!」
「あまり体重かけないほうがいいよ」
「もうどうでもよくなってきた…」
「骨は拾うから!」
いや違うだろ。
しかし、坂が急になると、
「わぁー!!」
と驚く。
なんかみんなおかしくなってきて、騒ぎながら笑いがとまらなかった。
「後ろ楽しそうだね~。」
先輩達が不思議そうに言う。
実際、今日一日でこの時が一番楽しかったかもしれない。