吹いて奏でて楽しみましょう


苦肉の策とはまさにこのことだろう。


結局、テナーは莉奈。バリトンは2人でならということで、私と茜が担当した。

バリトンにファーストとかセカンドはないから、1人でいいんだけど。


しかし、楽器はアルト。


なんだかな~とは思う。だが、誰も貧乏くじを引こうとはしなかった。




「ねぇ、誰かマウスピースの吹き方教えて~。」


楽器を渡された私は

「まずはマウスピースの吹き方を誰かに教えでもらえよ。」

という先生のアドバイスでサックスの練習場所に来た。


「あ~そうか、楓はフルートだったもんね。いいよ、私が教える。」

「ありがとう。」


指遣いを教えていた恵に変わって、吹き方は茜が教えてくれることになった。



「この上の方に前歯をあてて、」

「こう?」

「そうそう。で、下唇を巻きこみながら、くわえる。」

「え?」

 巻きこむ?

「こう。」

茜が下唇を口の中に入れて、そのままマウスピースをくわえた。

「…そのまま吹くの?」

「そうだよ。」

とりあえず真似してみる。
 やっぱり、これって…。


「下口の中の肉が痛くない?」

肉が歯とマウスピースで挟まれている。


「あーうん。歯形とかつくけど、慣れれば痛くなくなるよ。」

「そうなんだ…」

 慣れるんだ。そうだよな。みんなこうして吹いてるわけだし。


「これで、10秒ぐらいかな?」

「うん…。」

それは、どの楽器も同じ。


みんなに追いつこうと努力したのだが。


 口がめちゃくちゃ痛い。慣れるまでに千切れそうなんですけど!?


結局、初日は痛さと歯形だけが残った。



 恐ろしやリード楽器…



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