吹いて奏でて楽しみましょう

「楓、先生が呼んでる。」

「うん。あ、莉奈、テナーの楽器だ!もう吹いてみた?」

「うん、ちょっとだけ。」

「どう?難しい?」

「う~ん?てゆうか、重い。」

「あははっ。でもカッコイいよ!」

「そう?」


莉奈と話してる間に先生に呼ばれてしまった。

「楓!早く来い!」

「あ、はい!
じゃあ…行ってくる。」

「頑張って。」

莉奈が哀れな目で応援するのに苦笑で返す。


「バリトンは二つあるから、どちらか好きな方でいいぞ。」

二つを見比べると、一つは色が曇っており、もう一つはまだ少し光沢がある。

「どちらが吹きやすいんですか?」

「うん、まあそれが大事だな。こっちの方が新しいではあるが。とりあえず、吹き比べてみるか。」

「はい。」

 え?でも、私バリトンは、初めてなんですが。

プー♪プー♪

 う~ん。やっぱりわからない。

「あまり、音出ないな。どうだ?」

「若干こっちの方が吹きやすい気も…。でも、よくわからないですね~。」

「そうか…。ま、前の一年はこっちの方、使ってたな。こっちにするか。」

四月の初めに少し入って辞めた子だ。

「あっ?」

「どうしたんですか?」

「足がない。」

「?」

「バリトンは重いから、普通、楽器を支える棒があるんだ。それが無いみたい。」

「えー?!じゃあ、もう一つの方は?」

「うん…
おっ?!こっちもないな~」

「え?両方ともですか?!」

「うーん。ま、足無しでもやってる奴は多いから。」

 えー?!何言ってんの?首と右親指だけで支えろって?!

私が唖然と見ていると、

「楓は、練習、座ってやってていいから。」

「はあ…。」


結局、私だけイスに座り、楽器を直接床につけて吹くことになった。

 はぁ~。少し楽にはなったけど、本番もこれかな?

なんか恥ずかしい。


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