吹いて奏でて楽しみましょう
貴子ちゃんが来てから数日が過ぎ、私と同じく一人で入ってきた彼女も部活に馴染んできたように見えた。

人に一から物を教えるのは意外と難しい。根気もいる。

 でも辞める気配は無くなったかな?

楽器も本体をつけ、指遣いを覚えている頃、先生が卒業式用の楽譜を持ってきた。

「卒業写真」

部室に置いてあった歌謡曲だ。


3日後、試しに合奏をした。

「う~ん、やっぱり欠けてるパートが多すぎるな~。
あ、ここも吹くやつがいないのか…」

15人ではムリもない。

「そうだ、貴子。」

先生が貴子ちゃんに呼びかけた。

貴子ちゃんはまだ曲は吹けないので、私の横で楽譜を追いながら見学していた。
 ?

「はい…?」

「ピアノは弾けるんだったな?」

「はい。」

「エレクトーンは?」

「はい、弾けますけど?」

「じゃあ、今回はエレクトーンをやってもらえないか?
人数が少ないから、助かるんだが。」

「え、あ~はいわかりました。」

「そうか、じゃあ楽譜なんだが…」


といわけで、貴子ちゃんはエレクトーンをやることに。

「うん。やっぱり違うな。これならなんとか行けそうだ。
もう少しボリューム上げるか。」


かなりの戦力になってるみたいだが。

 また、後輩がいなくなったな。



「貴子ちゃんさ、あのままピアノやるのかな?」

その日の帰り道、莉奈が言う。

「今回だけって言ってたけど…」

「でも、人数が足りないからやらされてるんでしょ?このまま増えなかったらー。」

「楓、せっかく後輩出来たのに残念だね。」

「うんー。そうだね~。ちょっと寂しいような。」

「なんか人事っぽい。」

可笑しそうに茜が言う。

「トロンボーンの二人もフルートだったし、入る人は多いけど、みんな抜かれたね。」

「なんか、損な感じだね。」

 確かに、せっかく苦労して教えたのに損なのかも。

「せめて、25人ぐらいいないとダメなのかもね。」

 来年は私も引退だ。絶滅危惧種?

いや、それを言えば、クラやサックス、ホルン、ユンフォ、パーカスもみんな後輩がいない。

チューバやコントラバス、ピッコロやテナー、バリトンに至っては誰も奏で手がいない。

< 287 / 467 >

この作品をシェア

pagetop