吹いて奏でて楽しみましょう

次の日、早速機会は訪れた。

2年生が各クラスの用事で遅れるということで、1年生だけが練習していた。

 うわ~。いきなり絶好の機会が来た。

とぼとぼと洋子ちゃんと藍理ちゃんの所へ歩を進める。

「あ、楓先輩だ。こんにちは」
「こんにちは。」

「こんにちは~。」

「もう基礎練やるんですか?」

「うん…。いやその前に、話したいことがある。」

ガラッとイスを引いて二人の前にちょんと座る。

「な、なんですか?」

「比奈ちゃんのことなんだけど。」

「比奈先輩?」

意外そうな声がかえってきた。

「そう。昨日基礎練したよね。その時、ちょっとでも比奈ちゃんの音を聞いたり、様子を見たりしたかな?」

「……いえ、あんまり…」

? そんなはずはない。

「本当?」

「あ、え~っと、少しは…」

「どう思った?」

「え?」

「正直に言っていい。じゃないと、話が進まないから。私は本音が聞きたい。」

二人顔を見合わせ、

「苦しそうでした…。」

「初めは気づかなかったけど、音があまり聞こえなくて…」

「うん。自分達より下手だと思った…?」

「え!?それは……」

それきり黙ってしまったので私から話すことにした。

「比奈ちゃんは、4月にみんなと一緒に入ってきた子だけど、正直みんなよりはるかに上達は遅いです。それは二人もうすうす気づいてるはず。」

「…」

「じゃあ、比奈ちゃんを見下す?自分より劣っているからと、下に見る?」

「!?いえ!そんな!」

「たとえ自分が上手くても、先輩として見れるかしら?」

これは賭けなのかもしれない。

私は正直に答えろと言った。もし「見れない」と返答されれば次の言葉を考えなければならない。

 それでもいい。私が変えていく。

「…見れます。先輩として。」

洋子ちゃんの言葉に藍理ちゃんも頷いた。

「どうして?」
二人の返答に少し表情を和らげて問う。

「比奈先輩は一生懸命だから。私にはそう見えるから。」


私はその答えに満足した。

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