吹いて奏でて楽しみましょう
名残惜しいが、曲は終盤へと進む。
バラードの後の余韻が終わり、一瞬の沈黙の後、スネヤドラムがソロでその沈黙を突き破るように鋭いリズムを刻むのだ。
タカッタッタッタッタン、タタタン!タカッタッ…
それが呼び覚ましたように他の楽器がグワッと再び力強くテンポアップしたメロディーを奏で、盛り上がっていく。
この場面も、重要でかつ難しいリズムを刻むため、練習ではスネヤを叩く田中君は何度となく先生に注意されていた。
『ダメだ出遅れてる』
『もっと鋭く!』
『焦るな。』
『固くなってるぞ、手首を使って正確に。』
さすがの田中君も緊張したり、自分の出来に満足いかず、何回も練習していた。
いつもひょうひょうとこなしてるイメージがあるので、珍しい光景だった。
でも、それだけここは見せ場でカッコイい所なのだ。
バラード部分もより美しい響きを出すために何回も注意が入れられていた。
練習で苦労し、磨かれた各場面が終わった。
~♪
そしてラストスパート、最後の盛り上がりを勢いよく、かつ丁寧に紡いでいく。
~♪~♪~♪!!!
ワー
パチパチパチパチ…
最後の音まで出し切って息を止め、指揮者を見つめたまま全てが止まる。
最後まで気を抜かない。
だって、本当にこれで最後だから。
先生が笑みを浮かべながら、スッと指揮棒が下ろされると、私も気が抜けたようだ。
楽器を下ろして、ようやく観客席を見回す。
はぁ、終わった。