吹いて奏でて楽しみましょう
 
グラウンドに出てきた私達は、楽器ごとに並んで大きな円になった。

「たまにはこういう練習もいいだろう?」先生が言う。
「今日はグラウンドも空いてるしな。思いっきり音を出せ。」


確かにいつも練習のために使われているグランドには珍しく、部活生の姿はない。
長い夏休み、こういう時もあるようだ。


「じゃあ、みんなでロングトーンだ。出せるまで出せよ。」

 てっきり走ったり運動をするのかと思いきや、ほぼロングトーンが占める基礎練だった。
でも確かに狭い教室では全体で円になってお互いの顔を見ながらの基礎練は出来ない。
みんなの顔や実力を見ながらの基礎練は新鮮でおもしろかった。

「じゃあ、次は一列になって楽器を吹きながらグラウンドを一周行進して来なさい。」

改築中で体育祭が出来なかった私達は、行進しながらの演奏など最初で最後の事だった。

2年の時に遊びで廊下を行進しながら吹いた事はあったが、さすがに炎天下のグラウンドを行進しながら吹くのは体力が入り、演奏もバラバラで疲れたが、なんだかそれさえ楽しかった。


「は~、疲れたね。」
「あっつ~い。」
「汗で楽器滑りそうだった。」

教室に帰って麦茶を飲みながらつかの間の休憩時間。
戸惑いながらもやったグラウンド練習の感想が口を出る。

「でも少し楽しかったね。」
「うん、体育祭あったらあんな感じだったんだね。」
「そうか!体育祭無かったんだ。」
「先輩達が行進練習のこと言ってたもんね。」
「あ~、そうだね、きついよって。」「フルートは毎年誰か倒れるって言ってた…。」
「こわっ。」
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