吹いて奏でて楽しみましょう
その日はそのまま晩御飯を食べて、入浴した。
入浴と言っても職員用の入浴室でシャワーを浴びるだけだが、人数が人数なので時間がかかる。
少ない男子は先にすませてもらって男子用のシャワー室を使っても行列ができた。
「あ、空いたじゃあ先に入るね。」
「うん。行ってらっしゃーい。」
茜達と並んでいた私は、自分の番が来るまで少し一人になった。
そこへなぜか他の後輩と話していたはずの1年が来た。
「楓せんぱーい。」
あら、めずらしい。
「真利(まり)ちゃん。どうしたの?」
ホルンの子だ。
「楓先輩って、お姉ちゃんの後輩だったんですよね?」
「うん、そうだよ。」
そうなのだ。この子は楽器が違うだけではなく、フルートでお世話になった先輩の妹だけに、どう接していいか掴みかねていた。
とはいえ、優しくてきれいだった清花先輩の妹であれば好感も持っていたので、話しかけてきた事は嬉しくもあった。
多少戸惑ったが、なんとか話を続ける。
「清花先輩は元気?」
「うん。」にこにこと無邪気に答える真利ちゃん。
他に聞きたい事はいろいろあるが、先輩の事をどこまで聞いていいのかわからない。
「そう…。真利ちゃんは部活楽しい?」
「う~ん。はい。」
「そう!それは良かったね。」
真利ちゃんの笑顔につられにっこりと笑って言ったが…
話が続かない…。何かを期待するようににこにこと見つめてくるのは何だろう?なんか緊張する。こうして見るとかわいいけどやっぱり清花先輩とは雰囲気が違うな。
「…お風呂混んでるね。」
話術が得意ではない私は困ってしまった。暫く沈黙が続く。
「…なんかつまんない。」小さくそう呟く声が聞えたと思うと、真利ちゃんは去っていた。
…へ?今のマジで?呆然としていると
「楓空いたよ~、ってあれ?どうかした。」先に出てきた茜が聞く。
「いや、なんでもない。」
衝撃が通り過ぎると怒りが沸いてくる。
普通、先輩にあんな態度とるか? 無邪気と言えば聞こえはいいが…
うっすら怖さも覚え、混乱した思いを水と一緒に流すことにした。
忘れたいというか、忘れよう。