吹いて奏でて楽しみましょう
「僕、フルートなら少し吹けるよ。貸して。」
パーカスの田中君は唯一吹けるというフルートを御所望だ。
確かにフルートは吹きやすい。
「うん、いいよ。」
うっかり言ってしまうと、田中君は私のフルートを取ろうとする。
「えー!?楓いいの?」
恵が驚いた声を出す。
「え?」
「だって…」
言いにくそうに口ごもる恵に変わり莉奈が
「これ、楓のだよね?」
あ、そっか。
「別の持ってくるから待ってて。」
そう言って取りに行こうとする私に
「いいよ、これで。」
田中君はかまわず吹こうとする。
「え?」
ちょっとちょっと、私が困るんだって。
これデジャブか?一年の時もこういうのあったような。
再び口に持って行こうとする田中君をみんなのキャーという声が止める。「いや、他の持ってくるから…」
ちょっとしか吹けないからいちいち新しいのは出さなくてもいいというところだろうが、この状況ではあらぬ誤解を受けそうで困る。
特に恵はそういうことに敏感で自分の楽器を絶対異性に触らせない。
「えー、金城さんは僕が吹くの嫌なの?傷つくな~。」
「え?そういうことじゃなくて…。」
「じゃあいいんだ?」
「いや…」
私が戸惑っていると、少し笑みをうかべて様子をうかがっているのがわかった。
こいつ、私が普段反応薄いからってからかっているな…。
そう思った私は
「これはダメ。」
ときっぱりと言った。
え~ひど~い。
とすねる彼にも無視。
田中君は普段からこいうところがある。
最初は純粋に吹きたかっただけかもしれないが、もうこうなっては無理でしょ。本人もおもしろがってたし。