恋、涙 …

もう一度教室の中に入り、俺は携帯を見た。



また…あの番号だ─



｢…もしもし？｣



俺は、発信者のことを確信を持って『あいつ』だと思っている。



けど…
今、初めて出た。



『やっと出てくれたね…』



電話越しに聞くその声は、やはり『あいつ』だった。



｢葉月…｣



『そうだよ。ねぇ、ｶｽﾞ。篠原 希さんは？』



こいつ…
なんで篠原の名前を？



『いる訳ないよね〜』



｢…どうして？｣



なるべく平然を装い、俺は葉月に尋ねた。



『だって…篠原さんは、ここにいるんだもん。』



えっ…？



一瞬凍り付くような感覚を覚えた俺は、電話越しに葉月の笑い声を聞いた。



『ふふ…驚いた？』



｢それは…本当なのか？｣



『うん、本当。なんなら本人の声でも聞いてみる？』



どうやら、葉月は冗談で言っている訳ではないようだ。



となると…
篠原は誘拐された？