さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「なんか人って苦手だからね」

 尚志さんは寂しそうに微笑んでいた。

 彼も母親に関することで嫌なことがあったのだろうか。

「一つ聞いていいですか?」

「彼女の話?」

 彼は笑いながらそう言う。

「違います」

「分かっているって」

 絶対に遊ばれている。あたしはそんなに顔に出やすいのだろうか。

「尚志さんは母親に演技をさせられなかったんですか? 千春みたいに」

 今、なんとなく気になったのはそのことだった。

「させられたよ」

 彼は肩を大げさにすくめる。

「でもそのうち終わったよ。でもその分、千春一人に期待が向けられたっていうか。そのときの千春は痛々しかった。無理に期待に応えようと頑張っていたって分かったから」
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