さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「嬉しかったんだと思うよ。あいつにとって過去は苦しみの対象だったけど、それをきちんと見ていてくれる人がいたっていうことが。損得勘定なしに純粋なあいつを、ね」

「だって、ずっとすごいなって思っていて。彼女だけが輝いて見えたから」

 仁科秋が千春だと分かってもその気持ちは変わらなかった。

「そんな風に純粋にあいつ自身を見てやれる人はいなかったから。俺は引け目があって、あいつを庇ってやれなかったから」

 いろいろと難しいものなのだと思った。

 みんな彼女の才能を見ていた、と言いたいのだろう。

「あいつは気が強いところあるけど、よければ仲よくしてやってほしい。こんなことを俺が言うのはどうかと思うけど」

「あたしは千春のこと好きだし、気にしないでください」

 彼女があたしの夢を阻む壁になっていたとしてもそれは変わらない。引導を渡されたのが彼女でよかったのかもしれない。

 水絵さんには憧れていた。でも彼女は大人だったし、ただの憧れの対象でしかなかった。

 女優になりたいと強く思うようになったのはどちらかといえば千春の影響のほうが大きいだろう。
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