さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 今は待ち合わせの時間の十五分前だった。

 なんとなく彼が先に来ているとは思わなかった。

「今日はごめんなさい」

 あたしは頭を下げる。

 結局来たくもない彼を無理に連れてきた形になってしまったからだ。

「俺もごめん。てっきり君は千春と一緒に行きたいのかなって思っていたからさ。俺と一緒に行っても楽しくないかなって思って」

「そんなことないです。すごく楽しみでしたから」

 彼を無理に連れてきた形になったとしても、だ。

「千春に何か言われました?」

 彼は言葉につまり、あたしから目をそらす。

「いや、あの」

 やけに歯切れが悪かった。

「何か迷惑なこと言いましたか?」

「そうじゃなくて、人の気持ちが分からないのかって怒られただけだから」

 彼はそこで言葉を切る。
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