さよなら、もう一人のわたし （修正前）
彼女は何をどうやって、私のことを調べたのだろうか。ちょっと不気味な気はする。

　でもその程度だと他の子に聞いただけでも分かりそうだったので気にする必要はないのかもしれない。

「毎日練習しているのか発声はいいわね。

その辺りのアイドルよりは上手だと思うわ。

でも、あなたは役の選定が悪すぎ。

人を好きになったことのない人が人を好きになる役を演じられるわけがないでしょう？」

　千春の口から飛び出してくる評価に驚いていると、彼女はウインクをした。

　彼女の言っていたことは間違っていない。

　私は今まで誰かを好きになったことがないと思う。

「それで大丈夫なのか？」

「多分大丈夫。私が指導するから」

　主語のない会話が二人の間で続いていた。この兄妹は何を言っているのだろう。

「君の両親は？」

「定食屋で働いています」

　私は父親の顔を知らない。産まれたときから母親が女手一つで育ててくれた。

　早く女優になりたかったのは、単に仕事に憧れを抱いていただけではなく、そんな母親を少しでも楽させたかったのかもしれない。
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