さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしがそのことを千春に聞くと、彼女は肩をすくめた。

「他の役はちょこちょこ決まっているみたいよ」

「キスシーンあるんでしょう? 相手役が誰か気になるの」

「あ、もしかしてまずかった?」

 千春は苦笑いを浮かべていた。

「いいよ。忘れていたけど、知っていたし。でも、あたしは誰ともキスとかしたことないから、最初は好きな人としたいな、って」

 あたしの髪を優しい風が撫でる。

「好きな人って誰?」

 あたしは尚志さんのことを思い出していた。

「お兄ちゃん、か。それまでにつきあえばいいじゃない」

「そううまくは行かないよ」

 あたしは昨夜の彼の顔を思い出していた。

 彼は寂しそうに微笑んでいたのだ。

 あたしは今までに感じなかった距離を感じていたのだ。

「大丈夫だって」

 千春は何度もそう言ってくれた。

 でも、あたしには尚志さんのあの言葉が別れの挨拶のように聞こえたのだ。

 なぜだかは分からない。

 けれどそう思ってしまっていたのだ。

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