さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「何か飲み物でも買ってくるよ」

「あたしの分も買ってきて」

 弘は「分かった」というと自販機の方向に歩いていく。

 あたしは近くのベンチに腰を下ろすことにした。

 この大学の構内に毎日尚志さんが通っていると思うと不思議だった。

 あれ以来彼には会っていない。

 それでもなお、彼のことを思い出すだけで胸の辺りが変な気分になってくる。

 別に彼に助けられたとか、救われたとかそんな大げさな記憶があるわけではなかった。

 なんとなくいいなという気持ちから、彼の優しさに触れ、彼のことを好きになっていた。

 運命的でもない、ありふれた出会いで、本当に自然な気持ちだった。

 あたしはそのうち彼のことを忘れられるのだろうか。

 その答えは分からなかった。

 でも、ずっと引きずり続けるのは苦しい。
< 175 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop