さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 人に見られたらとか、弘が帰ってきたらとかそんなことは全く考えていなかった。

 ただあたしは目の前の現実に何もすることができなかったのだ。

 そんなあたしの前に灰色の影が伸びてきた。

 あたしがその影を認識すると同時に優しい声が耳に届く。

「大丈夫?」

 あたしは顔を上げた。

 そこに立っていたのは睫毛の長い、あどけない顔立ちをした男の人だった。

 彼の髪の毛は光を浴び、とても柔らかく見えた。

 彼の茶色の瞳にあたしの姿が映る。でも、数秒後、彼は目を見開いていた。

 そのとき、あたしは我に返る。

 体が熱くなるのが分かった。

 何やっているんだろうという気持ちと、人に見られたのが恥ずかしい気持ちからだった。

「大丈夫です。すみません」
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