さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 彼はあたしの好みを一通り知っている。

 あたしの夢のことも知っていて、応援もしてくれていた。

 あの話も千春以外では彼しか知らないのだ。

 苦味のある紅茶独特の風味と、優しい香りがあたしの心を落ち着かせてくれた。

 あたしはずっと閉じていた口を開いた。

「ごめんね」

 彼は目を細め、優しい笑みを浮かべていた。

「いいよ。お前が泣くところは始めてみたからさ」

 本当は弘のためにやってきたのに、全然意味がなかった。

 本当は尚志さんのことをいくらでもごまかせた。でも、彼には嘘を吐きたくなかったのだ。

「あたしね、千春のお兄さんが好きなの」


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