さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 スターになりたかったわけでもない。

 きちんと役を演じられる人になりたかった。

 それに水絵さんに憧れていたあたしにとって、彼女と役を演じられる同じことはこれ以上はない話でもあった。

 それもあたしが憧れている仁科秋の指導を受けることもできる。

 あの映画を撮った監督からいろいろ指導してもらえる。

 それだけであたしにとって十分な価値があったのだ。

 でも、部外者のあたしがいろいろ考えても分からないし、乗れるなら乗るしかないとは思う。

 もし、何かあるならいずれ教えてくれたらいいとは思ってもいる。

「でもいい経験になりそうでしょう?」

「ま、そうだよな」

 弘はコーヒーを飲み干した。

 あたしが紅茶を飲み終わるのを待って、お店を出ることにした。

 辺りはすっかり日が落ちていた。

 そろそろ母親が返ってくる頃だろうか。

 弘はあたしより二歩ほど先を歩きながら言った。

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