さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 優しい人だと思った。

 なんとなく彼と一緒にいると優しい気持ちになれる。

「千春のお兄さんのこと知っているんですか?」

「直接会ったことはないけど、彼女から嫌ってほど聞かされたから」

「昔からお兄ちゃん子なんですね。彼女」

「そうだね。彼女が口を開けばいつもお兄ちゃんだったから」

 そんな彼女はあたしと兄の板ばさみのようになって辛い気持ちを抱いていたりするのだろうか。

 あたしは何ともいえない気持ちになる。

 あたしは会話が途切れてしまったことに気づき、続きを言おうと思う。しかし、言葉が出てこなかった。

 あたしと彼の間には気軽に話せる予備知識がなにもないのだ。

 そんなあたしの気持ちを見据えたかのように彼は告げた。

「無理に話さなくてもいいよ。僕も人と話しをするのは苦手だから」
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