さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「できれば年相応に見られたいけどね。童顔なんて損だと思うから」

 人にはいろんなコンプレックスがあるのかと驚く。

 あたしが彼のような顔だったら悩みなどなにもない気がする。

 他人のものほどよく見えるという状況なのかもしれない。

「でも、相手役が平井さんみたいな話しやすい人でよかったよ」

 あたしはその言葉に胸が高鳴る。

 好きな人というわけでもないのに。

「話しやすいですか?」

「うん。がつがつもしてないし、深くあれこれ聞いてきたりもしないしね。初対面で家族構成とか聞かれるとちょっとね」

「それはあたしもあまり聞かれたくないからかも。昨日のこととか」

 彼は屈託のない笑顔を浮かべていた。

「それでも、さ」

 あたしの感じていた不安や悩みはあっという間に消え去ってしまった。

 あたしはどうしてどこまで物事を大げさに考えていたのだろうと思ってしまうほどに。
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