さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしの目の前には、背の高い男の人がいた。

 その隣には髪の毛を肩まで伸ばした女の人が近くを歩いていた。

 あたしの胸が高鳴る。

 彼の姿を見るのはかなり久しぶりだった。

 四月に大学に忍び込んで以来だった。

 少し冷めた目元も整った顔立ちも、あたしにとっては全てが特別だった。

 彼はけだるそうに言った。

「面倒だからパス」

 彼の声を聞くだけで、胸が締め付けられたように苦しい。

 どうしてあたしは彼の声に反応してしまうのだろう。

「どうして?」

「嫌だって言ってるだろう? 面倒だから」

 彼は冷たい口調で突き放す。あたしならそれで怯むだろう。

 しかし、彼女はその程度では怯まなかった。




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