さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「あの子とは行けたのに、あたしとは無理なの?」

 彼の顔が一瞬強張るのが分かった。

「千春ちゃんから聞いたから。あなたは」

 彼女の言葉をかき消すように彼は言った。

「そうだよ。君とは無理」

 その強い口調とは裏腹に、淡々としていて気持ちがこもっていないように思えた。

 あの子って誰だろう。

 あたしは二人の姿を目で追っていた。

 二人は信号のところで足を止める。

 彼女は小さな声で呟いた。

「いいなあ。あたしもその子が羨ましい」

 尚志さんはそれ以上何も言わなかった。

 車のエンジン音がざわついた町の中に響き渡る。

「平井さん?」

 大きい声ではない。ただよく通る声が辺りに響く。
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