さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「あたしはずっとあなたのことが」

 街中だとか、そんなことを全く気にしていられなかった。

 あたしは唇を噛み締める。

 彼にこうやって会うのは最後になるのかもしれない。

 あたしはそう思った。

 長いような短いような時間が流れた。

 尚志さんの声が街中に響き渡る。振り返ることもしなかった。

「俺は君のことは好きじゃないよ。あのときのことも千春が勝手に思いこんだだけで」

 尚志さんが天を仰ぐのが分かった。

 今、彼がどんな顔をしているのかは分からない。

 でも、迷惑そうな顔をしているかもしれないと思った。
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