さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「それ以外でお願いね」

「どうして?」

「どうしてもよ」

 あたしは仕方なく、別の作品を捜すことにした。

 千春はキッチンにいる兄を睨む。

「面倒だから片付けておいたのに。お兄ちゃん、どうしてこれをここに並べたのよ!」

「他のところに置いておいたら分からなくなるだろう?」

 尚志は千春を見ることもなく、淡々と答えた。

 彼女が指し示しているのがこのビデオだとすぐに分かったようだった。---

「そんなことないし」

 なぜ千春はそのビデオをそんなに見られたくないのだろうか。

「そしたらこの映画をお願い」

 できれば喧嘩をしないでいてほしかったので、あたしは昨年ヒットしたDVDを差し出した。
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