さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「ばからしい」

「それでもいいよ。あたしが勝手にそう思うから」

 前向きで、後ろを見ない言葉。

 あたしには絶対に言えない。

 そんな言葉だった。

「カット」

 監督の声が響き渡る。

 あたしはそのとき、安堵から胸を撫で下ろした。しかし、そのとき、軽い眩暈を覚える。

 崩れかけたあたしの体を杉田さんが支える。

「大丈夫?」

 あたしは頷いた。

「大丈夫だよ」

 そう口にしたもの、胃の辺りのムカムカ感が次第に強くなっていく。

 あたしはそのまま立ち上がろうとした。

 でも、そのままよろける。

 杉田さんがあたしの体を支えてくれた。

 あたしはお礼を言いたかったが言葉が出てこない。

 あたしの意識はそのまま遠のいていった。
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