さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「離してください」

 千春の声が一オクターブ上がる。

 彼女が嫌がっているのは明らかだった。

 あたしは二人を見ながらただ考えていた。

 こういうときはどうしたらいいのだろう。べたに警察呼びますよと叫ぶのだろうか。あたしは迷った末、口を開く。

「千春」

 あたしは彼女の名前を呼んだ。

 男があたしを見ると、顔を引きつらせた。

 そして、千春の手をつかんでいた手を離す。

 千春はその男を見据える。

「話があるなら伯父に直接言ってください。あたしにはその権限が一切ありませんから。行こう」

 あたしは意味が分からずに千春についていくことにした。
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