さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 杉田さんがゆっくりとあたしの傍に歩いていく。

 彼の髪の毛がゆっくりと濡れていくのが分かった。

 あたしはただ彼を見ていた。

 このシーンであたしは彼に恋心を抱くのだ。

 今まで好きになることはなかった彼に。

 あたしは何かを言おうとしたときだった。でも、言葉が出てこない。

 雨に濡れた彼の髪が黒っぽく見え、彼はあたしから目をそらすことなくあたしを見ていた。

 なんとなく、果歩の気持ちが少しだけ分かった気がした。

 彼は物憂げな瞳であたしを見ていた。

 彼と同じ心境ではないとは思うけど。

 彼の手があたしの手をつかんだ。

 濡れているけれど、温かい手。

「練習なら後からつきあうから、今はゆっくり安め」

 彼の手のぬくもりがあたしの手にじんわりと伝わってきた。

 あたしは頷く。




< 391 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop