さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 そこには机と戸棚が置いてあるだけの部屋で、部屋の中央にある窓のカーテンもしっかりと閉じられていた。

 千春はあたしより先に部屋の中に入ると、カーテンをひく。

 すると、太陽の日差しが部屋の中に差し込んできた。

 千春は窓を開けると、あたしを見て微笑んだ。

「ここはあたしの母親の部屋なの」

「母親?」

 彼女の母親と何が関係あるのだろうか。

 あたしがそう思ったときだった。

 埃を被った紙の束が置いてあるのに気づいた。

 あたしはその題名を見て、言葉を失う。

 思わず手にとって、その中身を確認した。

「それはあたしの父親が母親のために書いた本なのよ」

 千春はあたしがその本を手に取ることを分かっていたのだろう。

 嫌な顔をせずに微笑んだ。

 それはあたしが何度も見た彼女の唯一の主演作だった。
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