さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「平気じゃないです」

 慣れると違うのかもしれないけれど、今のあたしは違った。

 相手が杉田さんじゃなかったら、嫌でたまらなかったかもしれない。

 杉田さんはどうか分からないけれど、少なくともあたしはそうだった。

 でも、どんなに嫌でもそのシーンを拒むことなんかできないだろう。

 重要なシーンであればあるほどに。


「でも、そういうことをするのも仕事だろう?」

「そう、ですね」

 否定はできなかった。

 それは仕事だから。

 あたしの視界が一気にふさがれる。

 彼があたしを抱きしめたからだと分かった。

 あたしはとっさのことに理解ができなくて、ただ、されるがままになっていた。


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