さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 二人は待ち合わせていたのだろうか。

 別に二人がつきあっていても、関係ないし、咎める権利もない。

 そう思っていても二人の姿を追ってしまっているあたしがいた。

「どうしてこんなところにいるの?」

 彼女は不思議そうに肩をすくめる。

 待ち合わせているわけではなさそうだった。

 安堵した自分に嫌悪感を覚える。

 尚志さんはあたしには見せなくなった笑顔を彼女に見せていた。

 あたし以外にはああやって微笑むのだろう。

 そう思うとやるせなくなる。

 彼は水槽の奥にいる魚をただ見つめていた。

 優しいけれどどこか物憂げな瞳をしていた。

「いや、たまに来るんだよね。暇なとき」

「彼女と来たんだ」

 彼女。そんな人がいたっておかしくない。尚志さんの年齢なら早い人なら結婚を意識したり、結婚している人だっている。

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