さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 そこに立っていたのは尚志さんだった。

 あたしは彼から目をそらすことができずに、ただ彼を見つめていた。

 彼は眉間にしわを寄せて、あたしを見ていた。

 彼はあたしの体を覆うように傘を差し出した。

「何やっているんだよ。早く家に帰れよ」

 彼は吐き捨てるようにそう言った。

 今日、見たあの笑顔とは別人のようだった。

 あたしは唇を噛み締める。

「ごめんなさい」

 あたしはやっとのことで言葉を絞り出した。

 あたしの腕を尚志さんがつかんだ。

 彼は長いため息を吐く。

 言葉を選んでいるようにも、何を言うか探しているようにも見えた。

「家、近くだから千春の洋服でも借りろよ。そんなんじゃ風邪ひくから」

 少しだけ彼が呆れたように微笑んだ。その笑顔が懐かしくて、あたしの目からはまた涙が溢れてきてしまったのだ。
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