さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 千春の家は昔と何も変わらない。昔と同じだった。

 玄関の鍵を尚志さんが開ける。そして、扉が開いた。

 あたしは傘を閉じ、家の中に入った。

 尚志さんは靴を脱ぐと、あたしに「待っているように」と言い残す。

 数分後、彼の手に握られていたのはタオルだった。それをあたしに差し出した。

 あたしはタオルを受け取ると、髪についた雨を拭った。

「もうすぐ千春が帰ってくると思うけど、それだと風邪引くよな。気が引けるけど、勝手に洋服を出すべきかな」

 洋服なんて何でも人に貸せるものではない。中にはお気に入りのあまり人には貸したくない洋服もあったりするのだ。

 そんな微妙な気持ちは彼にはちょっと分からないかもしれない。

 でも、このままだとこの家の床が濡れてしまう。

 それも申し訳ない。

「母さんの洋服じゃサイズ合わないよな」

 彼はあたしを一瞥する。

「それもきっとお父さんが困るから、大丈夫ですよ」

 彼女が亡くなっても好きだったのならなお更だった。
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