さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 尚志さんの顔が一瞬だけ引きつるのが分かった。

 そして、彼の顔が悲しみで満ちるのが分かった。

 聞かないでくれ。彼はそうあたしに告げているような気がした。

「どうだった?」

 でも彼の言葉はいつものように淡々とした話し方だった。

 彼の心と言葉は大きく離れているのだろう。

「見たの。あなたを」

 あたしは彼から目をそらせなかった。

 そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「もうすぐ千春が帰ってくるから送ってもらえよ」

 彼はあたしの手をつかんだ。

 そして、自分の洋服の裾をつかんでいる手をゆっくりと引き離す。

 彼はあたしから目を逸らし、そのまま部屋を出て行こうとした。

「あたしはあなたのことが好きだった。ずっと、ずっと好きだったの」
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