さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「俺は君のことなんて好きじゃない。なんとも思っていない」

「じゃあ、どうして、あの女の人にあんなことを言ったの? あたしのことが」

「あれは」

 尚志さんの荒々しい声があたしの声をかきけした。

「嘘だから」

 あかりだけが虚しく、暗い室内を照らし続ける。

 尚志さんの動かない後姿をただ眺めていたのだ。

「そんなの信じないよ。もう嘘だけは聞きたくない」

 あたしの目から熱いものが零れ落ちる。

 本当のことが知りたかった。

 嫌いなら嫌いでいい。好きになってくれないなら好きになってくれなくてもいい。

 でも、彼の嘘で泣いたり笑ったりするのは嫌だった。

「それが一番いいんだよ。そしたら誰も傷つかなくていい。俺は君のことを好きじゃない。それでいいのに」

 あたしは尚志さんの傍に歩み寄る。そして、彼の背中に後ろからだきついた。
< 481 / 577 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop