さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 尚志さんが振り返り、あたしと目が合うと、ゆっくりとだきしめた。

「だから、だめなんだよ」

 彼の顔が見えない。でも、悲しみを抑えているように見えた。

「君にとっては最初で最後のチャンスだ。多分、二度目はない。夢を潰したいのか?」

「でも、あたしは」

 彼が好きだった。

 ずっと愛しいと思っていた。

「話は俺の部屋でしよう。父親にでも見つかったら大変だからさ」

 あたしは尚志さんの言葉に頷いていた。

 彼がすぐに帰ってくるはずの千春の名前を出さなかったのは、彼女は尚志さんの気持ちを知っているからだと思った。

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