さよなら、もう一人のわたし （修正前）
　尚志さんの部屋は昔と何も変わらなかった。

　変わらなかったのはこの家の外見だけではなかったということに気づく。

「引っ越したと聞いたけど」

「必要なものは向こうで買ったから。ここはたまに会社が休みのときに帰ってくるから、そのままにしている」

「そうなんですか」

　そしたらずっと会えないわけでもないのかもしれない。

　あたしはそんな期待に胸を高鳴らせていた。

　尚志さんはベッドに腰を下ろす。

「君を好きだったのは本当だよ。君が夢を諦めてくれればいいってずっと思っていたから」

「でも、あなたは」

　あたしの夢を応援してくれていると思っていた。

「口先だけは君を応援していた。でも、本心は全く別のところにあった。そんな自分が嫌でたまらなかったから、距離を置いたんだ」

　彼はあたしの涙腺を刺激するような声を出した。

　知らなかった。彼があたしのことをそんな風に思ってたことを。なぜ、あたしに冷たく当たったのかを。
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