さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 尚志さんの手が再び触れたのはあたしの頭だった。

「恋人にはなれないけど、君のファンでいるから。だから、君は自分の道を進めばいい。きっとそのうち、君に相応しい人が現れるから」

 なだめるように彼はそうあたしに語りかけた。

「現れないかもしれない」

「そしたらそれが君の人生なんだって思うよ」

「尚志さんには相応しい人が現れた? あたしを好きだったのはもう過去のことなの?」

 尚志さんの手が震える。彼の手があたしの頭から離れた。

「もしかすると、そんな君を受け入れられるときが来るかもしれない。でも、やっぱり俺が傍にいたらまずいんだと思う」

「どうして?」

「もし、俺と君がつきあったら、どう書かれると思う? あの作品を狙っている事務所はあった。君には想像以上に敵が多いんだよ。君は自分の体を使って、あの役をとったと書かれるかもしれない」

「体?」

「寝取ったってことだよ」

 その言葉にあたしの言葉が震える。
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