さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「知っていたよ。多分、君よりも先にね」

 もしかして、顔を合わせたときに知らなかったのはあたしだけということなのだろうか。

 少し複雑な気がしないでもない。

「もし、君の母親に伯父と結婚する気があるなら事情は変わってくるかもしれないけど、それでもいろいろ書かれるのは君だから。

それにもし、結婚して子供が生まれたりしたら、その子もプライバシーを暴かれたり、何か書かれるかもしれない。それは絶対に避けたいから」

 あたしは彼の体をつかんでいた手を離した。

 それが彼があたしを好きにならないと言った理由なのだろう。

 彼の気持ちが痛いほど分かった。

 ただ好きなのに。

 普通に好きになっただけなのに。

 どうしてこんなことになるのだろう。

 あたしの頬に尚志さんの手が触れた。

 あたしの頬に触れる温かい手。

 あたしは唇を噛み締めた。

 あたしが自分の夢を諦めない限り、彼はいずれこの手で誰かの手を握り、キスをして、抱きしめることがあるのだろうか。

 そんな自分の考えがあたしの心を締め付ける。

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