さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「ドロドロしている世界だから、人をどう変えてしまうかも分からない。君も変わるかもしれない」

 彼はそこで言葉を切った。

 その続きは聞かなくても分かる。

 だからあたしと一緒にいることは選べないということなのだろう。

「お母さんもね、本当は反対なんだと思う。でも、あたしの人生だからって反対しなかった。尚志さんの言いたいことはなんとなく、分かるから」

 あたしだって、尚志さんの立場なら反対するかもしれない。

 好きな人が傷つくのも変わるのも見ていたくない。

 自分には何もできないことだとわかるから。

「忘れたほうがいいんだよね?」

 否定してほしくて、そんな卑怯なことを言っていた。

 尚志さんの顔が困った顔になるのが分かった。

「ごめん。卑怯だよね。こんなこと」

 あたしは目をそらすと、立ち上がろうとした。

 尚志さんの手があたしの手首をつかんだ。
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