さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしはどうしても父親にはそのことを言えないでいた。
 
 本当は母親と同じ時期に言わないといけない。

 それが分かっていた。

 でも、娘と呼んでくれた彼に失望されたくなかったのだ。

 そんなとき、木下さんからちょっと変わったことを聞いた。

 母親に会いにいったあの日、あたしを起こさなかった理由。

 普通は、眠っていても起こすものだと思う。

 あたしは寝言でこう言っていたらしい。

 多分、娘と呼ばれたことがこの上なく嬉しかったのだろう。

 あたしは彼が起こそうとしたとき、図ったようにこういったらしい。

「お父さん」と。

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