さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「少し前に彼から聞いたから。君が迷っているみたいだから、辞めると決断したときは引き止めないでやってほしいって言われた。

それに僕がほしかったのは大物女優になりそうな子ではなくてね、彼女の役を演じることができる子だよ。

だから、君がこの先どうしようが僕は気にしない。現に君は期待以上に演じてくれた。今なら千春がどうして君にこだわったのか分かる。君でよかったよ」

 これ以上はない言葉だった。思わず目から涙が溢れてきそうになる。

 でも、彼の言葉は監督としての言葉で物寂しい気はする。

 仕方ないということも分かっていたのだ。

「本当に千春はこのために生まれたような子だよな。演じるだけではなく、人を見抜く力も一級品だ。

君よりも彼女が相手もいないのに専業主婦になりたいとダダをこねているのがもったいないくらいだよ」

 あたしは彼の言葉に笑ってしまった。

 確かにそうだった。

 あたし以上なのに、彼女は別の物を見ていた。

 あたしは頷いた。
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