さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 家の外は嵐のように雪が激しく吹きしきる。前方さえもしっかり見えなくなるほどだった。

 あたしはその雪に手を伸ばした。

 でも、雪はあたしの手に触れるとすぐに触れていった。

「早く」

 千春はそう言うと、あたしの手を引っ張り、駐車場に連れて行く。

 見たことのない車が停まっている。千春はその車にキーを差し込む。

「車、持っていたの?」

「父親の車。どうせ父親は缶詰状態だからいいでしょう?」

「そうなの?」

「新しい仕事をもらえたみたいだよ。小さいところで原稿料も安いみたいだけど、ここ数日、意気揚々としていたから」

 彼女は明るい笑みを浮かべていた。

 とまっていた長い年月に別れを告げて千春の父親も新しい道を歩みだしているのだ。

 寒い季節なのに、そこまで体を打ち付けるかのような寒さは感じなくなっていた。
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