さよなら、もう一人のわたし (修正前)
「それは表面的なもの。小さい頃、人を蹴落とす人たちを当たり前のように見てきたから、誰に対しても壁を作るようにしているの。

京香と康ちゃんだけは特別だったけどね」

 車が停まる。

 信号が赤だったからだ。

 彼女は優しい目をしていた。

「それに、恩返しかな。京香がいなかったら、あたしたちの家族はずっとばらばらだった。

お父さんのいないまま、お母さんの法事を延々としないといけなかった。

あたしの家族をまとめるきっかけを作ってくれた京香が幸せになれないなんて受け入れないから」

 もしかしてそれが千春があたしと杉田さんがつきあえばいいといった理由なのかもしれなかった。

「それに、面倒じゃない? 母親のこととかあたしの過去とかいろいろ聞いてくるような変な女に引っかかったりしたらさ。

まあ、あの強情で、融通のきかない兄がそんな女に引っかかるとは思えないけどね」

「でも、お礼を言うのはあたしで、あたしは何もしていないよ」

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