さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしは変な言い方をしてしまったかもしれないと思い、慌てて否定した。

「そんなつもりじゃなくて、本当によく分からないの。お父さんってどんな感じなのかな、とかね」

 あたしにとって父親は架空の存在でしかない。だから思いを馳せても夢物語のように想像でしか父親の存在を紡ぐことしかできなかった。

 千春の顔がより暗くなっているのに気づいた。あたしの言葉で彼女を追いつめてしまったかもしれないと我に返る。

「千春はいつまでお父さんと一緒に暮らしていたの?」

 千春の父親に興味があったわけではなく、これ以上彼女に暗い顔をさせたくなくて会話を変えようと思ったのだ。

「兄から聞いた? 母親が亡くなってしばらく経って、旅に出るって書置きを残してどこかに行ってしまったの」
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