さよなら、もう一人のわたし （修正前）

　千春はそこで言葉を切り、物憂げな表情を浮かべていた。

「それから兄貴と伯父さんに育てられてきたようなものだから」

　彼女の家もいろいろと複雑なのかもしれない。母親が水絵さんだっただけであたしにとってはすでに普通の家ではないけれど。

「お父さんのこと嫌い？」

「嫌いというよりは腹立つかな」

　彼女たちを置いて家を出たからだろうか。

「でもね、父親にも一つだけ同情の余地があるのかもしれないとは思っている」

　彼女は穏やかな口調でそう語りかけた。

「あなたが彼女に魅入られたように父も魅入られてしまったのよ。彼女という存在に。彼女の見ていた世界にね」

　あくまで千春の言葉は穏やかなものだった。しかし、その口調がある意味の含みをもたせているような気さえする。

「魅入られるってどういうこと？」