さよなら、もう一人のわたし （修正前）
　最初はあまり家から出ることもなかったものの、日本の人口だって少ないわけでもない。あたしが杉田さんと同じ映画に出ているなんて誰も気づかないことに気づいた。

　だから、こうして普通に出歩くことも少なくない。

　念のため、映画のときと同じ髪型にはいまだしたこともない。

　誰も気づかないとは思いつつも、今の生活を奪われたくないという気持ちもある。

　あたしは紅茶を注文し、メニューをテーブルの隣にたてかけた。

　でも、杉田さんまで顔が売れると、今のあたしのような行動は絶対にできないだろう、と思う。

　彼は相変わらず忙しいようだった。

　杉田さんとは相変わらず電話で話をするだけでほとんど会うことはない。

　ただ、彼の健康とかが気になる。

　今は彼の妹が彼と一緒に住んでいると聞いた。

　一緒に住むのが妹なら、無難は無難だろう。

　彼女は千春と同じ大学に通っている。

　千春は相変わらず大学に通っていて、杉田さんにあまり会えないと嘆いていた。

　彼女は口には出さないが、今でも彼のことが好きなのだろう。
< 570 / 577 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop