さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしたちはそのまま店を出た。

 空には不思議なほど綺麗な青空が広がっている。

 あのときのあたしはもうここにはいない。

「夢みたいな出来事だったなって思う」

 別に第一線に立ったわけでもない。人の記憶にほとんどあたしという存在が残ることはないだろう。

 でもそのときはあまりに満ちていて、あたしを幸せにしてくれた、と。

 今とは全く別の満足感がそこにはあった。



 自分で映画を見ていても、まるで自分ではないような、そんな気さえしてきたのだ。

 そんな感覚は不思議なものだった。

 そして、二度と味わうことのない感覚。

 でもあのときを過ごした自分に後悔はない。

 でもあたしはもっと大事なものを見つけてしまったのだ。

 それはあたしの心がある限り、永遠に失うことのないものだった。

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