さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 千春の言葉にあたしの胸が鈍い音を立てた。

 あたしは彼女の言葉にとっさに返事をすることができなかった。

 答えが分からなかったのだ。

「変な言い方してごめんね」

 千春は肩をすくめて天井を仰ぐ。彼女の視線が天井から降りてきてあたしの姿をとらえた。

 あたしは何も言えないまま千春を見た。

「あたしが生まれてから父親が仕事をしていた記憶がないのよ。職業柄あたしが見なかっただけかもしれないけどね」

「お父さんの仕事は脚本家だよね?」

 父親が書いた恋愛映画だと言っていたからだ。

 関連していない職業の人がそう簡単に脚本など書けるわけがないのだ。

 彼女は首を横に振る。
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